
結論:生活防衛資金は、ただの守りではなく、焦って悪い選択をしないための余白だと思います。収入が止まった時、仕事を選び直したい時、家族の予定が変わった時に、冷静に考える時間を作ってくれます。
資産形成という言葉を聞くと、NISA、投資信託、株式、利回りの話に意識が向きやすいと思います。もちろん、将来に向けて資産を育てることは大切です。ただ、その前に考えておきたいのが、生活防衛資金です。
生活防衛資金とは、急な収入減、病気、転職、独立、家族の事情、事業の売上低下などが起きた時に、生活をすぐ崩さないためのお金です。派手さはありません。増える楽しさもあまりありません。けれど、このお金があるかどうかで、仕事や人生の判断はかなり変わると感じます。
手元に余裕がない時、人はどうしても短期の選択に寄りやすくなります。本当は合わない仕事を受ける。焦って条件の悪い契約を結ぶ。転職や独立の判断を急ぐ。投資を途中で売ってしまう。こうした選択は、本人の能力が低いから起きるのではなく、考える時間が足りない時に起きやすいのだと思います。
生活防衛資金は、挑戦しないためのお金ではなく、挑戦を焦らないためのお金です。
まずは「何か月分」より、何を守りたいか
生活防衛資金の目安として、生活費の3か月分、6か月分、1年分といった表現をよく見ます。これは考えるきっかけとしては便利です。ただ、すべての人に同じ数字を当てはめるより、自分は何を守りたいのかを先に見る方が現実的だと思います。
会社員で収入が安定している人と、個人事業主や経営者では必要な備えが変わります。扶養家族がいる人、住宅ローンがある人、固定費が高い人、体調面の不安がある人も、必要な金額は違います。逆に、実家の支援を受けられる人や固定費が小さい人は、同じ金額でも安心度が変わります。
最初に見るとよいのは、毎月必ず出ていくお金です。家賃や住宅ローン、食費、水道光熱費、通信費、保険料、税金、教育費、最低限の交通費。この合計を出すと、「最低限いくらあれば暮らしが止まらないか」が見えてきます。
そのうえで、3か月分なら短期のトラブルに耐えるお金、6か月分なら転職や仕事の見直しを落ち着いて進めるお金、1年分なら独立や事業の波に対応しやすくするお金、というように意味を分けて考えるとよいと思います。
投資に回さないお金を決めておく
投資を始めると、「寝かせている現金がもったいない」と感じることがあります。気持ちはよく分かります。けれど、生活防衛資金は増やすためのお金ではなく、使える状態で待機しておくお金です。
このお金まで投資に回してしまうと、いざ必要になった時に相場が下がっているかもしれません。売りたくないタイミングで売ることになれば、投資の計画そのものが崩れてしまいます。資産形成を長く続けるためにも、投資しないお金を先に決めておくことは大切だと感じます。
置き場所は、基本的には普通預金やすぐ引き出せる口座が向いています。高い利回りを求める場所ではありません。引き出すまでに時間がかかる商品、価格が大きく動く商品、解約手続きが面倒なものは、生活防衛資金とは分けて考えた方が安心です。
会社員、個人事業主、経営者で見方を変える
会社員の場合は、失業給付、傷病手当金、有給休暇、会社の福利厚生なども含めて考えられます。もちろん制度に頼り切るのは危ういですが、自分が使える制度を知っておくと、必要以上に不安を大きくしなくて済みます。
個人事業主やフリーランスの場合は、収入の波が大きくなりやすいので、生活費と事業資金を分けて見ることが大事です。生活用の防衛資金と、事業用の固定費を払うためのお金が混ざると、どこまで使ってよいのか分かりにくくなります。税金や社会保険料の支払いも、別枠で見ておく方が安全だと思います。
小さな会社を経営している場合は、さらに注意が必要です。個人の生活費、会社の運転資金、納税資金、従業員への支払いは別の性質を持っています。全部を一つの口座残高で見ていると、残高があるように見えても、実際には使ってはいけないお金だったということがあります。
金額を作る順番
いきなり大きな金額を作ろうとすると、途中で苦しくなります。私は、段階を分ける方が続きやすいと思っています。
- まずは1か月分の最低生活費を別口座に置く
- 次に、3か月分を目標に毎月の自動積立を設定する
- 固定費を見直し、必要額そのものを小さくする
- ボーナスや臨時収入を全額使わず、一部を防衛資金に回す
- 目標額に達したら、投資や自己投資に回すお金を分ける
ポイントは、生活防衛資金を「余ったら貯める」にしないことです。余ったら貯める方式だと、たいてい余りません。少額でも先に移す仕組みにした方が、気持ちに頼らず続けやすくなります。
家族やパートナーと共有しておく
生活防衛資金は、自分だけが分かっていればよいものではない場合があります。家族やパートナーと家計を共有しているなら、「このお金は旅行や買い物ではなく、生活を守るためのもの」と認識を合わせておくと安心です。
ここが曖昧だと、残高があるから使ってもよいように見えてしまいます。何のためのお金か、いくらを下回ったら補充するか、どんな時に使うかを話しておくと、いざという時の混乱を減らせます。
見直すタイミング
一度作った生活防衛資金も、ずっと同じ金額でよいとは限りません。結婚、出産、引っ越し、住宅購入、転職、独立、親の介護、子どもの進学など、暮らしの前提が変わる時には見直した方がよいと思います。
また、毎月の固定費が増えた時も要注意です。家賃、保険、サブスク、通信費、車の維持費などが積み上がると、必要な生活防衛資金も増えます。反対に、固定費を下げられれば、同じ貯金額でも守れる期間は長くなります。
使ってよい時を決めておく
生活防衛資金は、貯めることだけを目的にすると、いざという時に使うのが怖くなることがあります。本来は、暮らしを守るために使うお金です。だからこそ、あらかじめ使ってよい条件を決めておくと安心です。
たとえば、収入が一時的に減った時、病気や家族の事情で働く時間を減らす時、転職活動や事業の立て直しに時間が必要な時などです。反対に、欲しいものを買う、投資の損失を埋める、なんとなく生活費が足りない時に毎月取り崩す、といった使い方は注意した方がよいと思います。
もし取り崩した場合は、落ち着いた後に補充する計画もセットで考えます。毎月いくら戻すのか、何か月で元の水準に戻すのかを決めておくと、使った後の不安も小さくなります。
今日からできる確認
1. 毎月の最低生活費を、ざっくりでよいので書き出す
2. 生活用、納税用、投資用、事業用のお金を分けて見る
3. まずは1か月分、次に3か月分という順番で目標を置く
4. 使う条件と補充する条件を、家族やパートナーと共有する
生活防衛資金は、目立つ成果ではありません。SNSで見せやすいものでもありません。けれど、仕事を選ぶ力、投資を続ける力、家族と落ち着いて話す力を支えてくれる、かなり大切な土台だと思います。
お金の安心は、金額だけで決まるものではありません。「何のために持っているのか」が分かっていることも大きいです。焦って決めないために、いまの自分の暮らしに合う防衛ラインを一度見ておく価値はあると思います。
参考リソース
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