
結論:失敗を個人の根性や能力だけで片づけると、同じ問題は形を変えて繰り返されます。組織のクセを見つけ、目的・情報・判断の流れを見直すことがマネジメントです。
参考にした良書:戸部良一ほか『失敗の本質』。本文では長い引用ではなく、書籍の考え方を実務に落とし込んで紹介しています。
図解:この記事を現場に落とす4つの視点
失敗は、現場だけで起きているわけではない
『失敗の本質』は、太平洋戦争における日本軍の組織的な敗因を分析した学術書ですが、現代の組織運営に置き換えて読むと、非常に示唆に富んでいます。この本が示す失敗の共通点は、個人の能力や努力の不足ではなく、組織としての判断のクセにあります。
「都合の悪い情報が上に届かなかった」「目的が曖昧なまま作戦が動き出した」「空気で意思決定されて異論が封じられた」といったパターンは、現代のビジネス組織にも頻繁に見られます。現場が動けなくなるのは、メンバーの問題ではなく、組織の構造が原因であることが多いのです。
悪い情報は、自然には上に上がらない
『失敗の本質』が繰り返し指摘するのは、現場の不都合な情報が上層部に届かなかったという点です。問題を報告すると責められる、場の空気が壊れる、上司が聞きたがらない——こうした状況が積み重なると、現場は「これは言わなくていい」と判断するようになります。
その結果、意思決定する側は実態と異なる情報で判断し、問題はどんどん大きくなってから表面化します。対処が遅れ、損失が拡大する。このパターンは、軍事組織だけでなく、チームや事業にも同じように起きます。
悪い報告をした人が責められる文化がある限り、情報の流れは詰まります。逆に「早く教えてくれてありがとう」が言える環境では、問題が小さいうちに動ける機会が増えます。
目的が曖昧になると、手段が目的になる
組織が動き始めると、「何のためにやるか」より「どう動くか」に意識が向きがちです。最初は明確だった目的が、時間とともに薄れて、「以前からやってきた方法」が優先されるようになります。
『失敗の本質』では、戦術の実行に集中するあまり、本来の戦略的目的を見失った事例が多く紹介されています。現代で言えば「KPIを達成すること」自体が目的化し、本来の顧客価値や事業成長から離れていくような状況です。
定期的に「この仕事は何のためにやっているか」を問い直すことは、マネジャーの重要な仕事のひとつです。手段と目的が入れ替わっていないかを確認する時間を、意図的に持つことが大切です。
空気が判断を支配する場では、反論が出なくなる
「場の空気」で意思決定が行われると、合理的な反論が入りにくくなります。会議でリーダーが「こうしよう」と言った後、誰も異論を出さない。これは全員が同意しているのではなく、反論が出にくい空気になっているだけのことがあります。
反論が出ない意思決定は、一見スムーズに見えます。しかし、重要な情報や視点が見落とされるリスクが高く、後になって問題が噴出することがあります。「なぜもっと早く言ってくれなかったのか」という後悔は、この構造から来ることが多いです。
意思決定の場で「反対意見はないか」と問うだけでも状況は変わります。「あえて反論するとしたら何か」という形で問いかけると、言いにくいことが言いやすくなります。
失敗を記録して、次の判断材料にする
同じ問題が繰り返されるチームに共通しているのは、失敗を記録して活かす習慣がないことです。失敗を誰かの責任にして終わらせてしまうと、問題の構造は変わりません。「何が起きたか、なぜそうなったか、次はどうするか」を記録するチームは、徐々に同じ失敗を減らせます。
記録の形は簡単でいいです。「今回うまくいかなかったこと」「その原因で自分たちがコントロールできた部分はどこか」「次に変えること」の3点を書くだけでも、振り返りは有効になります。失敗そのものより、失敗をどう扱うかがチームの学習能力を左右します。
現場が動きやすい組織にするための問い
組織のクセを変えるには、制度より問いかけの積み重ねが有効です。リーダーが日々の対話の中で問い続けることで、チームの情報の流れや判断のクセが少しずつ変わっていきます。
- 今週、言いにくかったことはなかったか
- 目標の意味を全員が同じように理解しているか
- 先週の意思決定で、もっと良い選択肢があったかもしれないか
- うまくいかなかった案件から、次に活かせることは何か
これらの問いを定期的に持つだけで、組織の自己修正の力が育っていきます。
今日から試せること
今週のチームのやり取りを振り返り、「上に届いていない情報がなかったか」を確認してみてください。「言いにくかったが、本当は伝えたかったこと」があれば、それが組織の情報の詰まりを示すサインです。
次の会議で意思決定をする前に、「この方向に進む上でのリスクや懸念点は何か」を一つ問いかけてみてください。最初は答えが出なくても、この問いを続けることで、異論を出しやすい空気が育っていきます。
同じ失敗が繰り返される組織に見られる3つのクセ
『失敗の本質』を踏まえると、現代の組織で繰り返される失敗には、大きく三つのクセがあります。一つ目は「数字に見えないものを軽視する」こと。現場の温度感や雰囲気の変化は、数値データには現れにくいですが、問題の予兆として重要です。
二つ目は「成功体験を変えない」こと。うまくいったやり方を続けようとすることは自然ですが、環境が変わった後も同じやり方にこだわると、判断がずれていきます。
三つ目は「異論を持つ人を孤立させる」こと。反対意見を出す人が「空気を読めない」と評価される環境では、やがて誰も問題提起をしなくなります。これら三つのクセは、どれも意識的に働きかけないと自然には変わりません。まず「うちのチームにこのクセはないか」という問いを持つことが出発点です。
組織の問題は、問題が起きてから対処するより、起きにくい構造を先に作る方が効率的です。情報が上がりやすい習慣、反論を出しやすい会議の形、失敗を記録する仕組み。どれも一度に全部作る必要はありません。まず一つ変えることで、チームの動き方が少し変わります。その積み重ねが、組織のクセを書き換えていきます。
『失敗の本質』が現代に読まれ続けている理由は、組織の問題の本質が時代を超えて変わらないからです。技術は変わっても、人が集まって判断を下す構造は変わりません。情報を上げる文化を作ること、目的を問い直すこと、反論を受け入れること。この三つを日常の習慣にすることが、現代のマネジメントでも有効です。
組織のクセは長い年月をかけて作られます。変えるにも同じくらい時間がかかることがありますが、リーダーが問いかけ続けることで、少しずつ変わります。変化は目に見えにくいですが、一年後のチームの雰囲気を見ると、日々の積み重ねが分かります。
組織のクセを変える仕事に、即効薬はありません。けれど、会議の進め方一つ、報告の形式一つから変えていくことはできます。小さな習慣の変化が三ヶ月続けば、それはもう新しいクセです。焦らず、確実に上書きしていきましょう。
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